NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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アプタマーの機能を飛躍的に向上させる in silico maturation

アプタマーは一本鎖の核酸で、抗体同様、特異的に標的分子に結合する。
抗体と異なり、試験管内進化法で作製できるが、今回、コンピューターを用いた核酸配列進化法による機能の最適化に成功した。

研究機関・所属 東京農工大学 大学院工学研究院 生命工学専攻
氏名・職名 池袋一典 教授
研究テーマ名 進化模倣アルゴリズムを用いてアプタマーモジュールを組み合わせる高機能アプタマー探索法の開発
応用想定分野 診断・バイオセンサー、創薬、健康状態のモニタリングなど
技術概要

 アプタマーは核酸リガンドで抗体と同じように診断・創薬分野での応用が期待されています。アプタマーは抗体と異なり,試験管内進化法で獲得できることから、新しい標的分子に対して探索しやすいのが利点ですが、従来の試験管内進化法では必ずしも抗体並みの結合能を持つものが得られません。そこでコンピューター内進化を利用してアプタマーの望みの機能を飛躍的に向上させる手法、in silico maturation法を開発しました(下図 B参照)。

  • (A) アプタマーの模式図  
  • (B) in silico maturation法の行程と
    アプタマーへの適用例

 従来の試験管内進化法は、1)実験的に扱えるDNAライブラリーの配列の多様性が理論値の1万分の一以下程度しか無い、2)探索過程で必須のPCR増幅において、構造的(右図 A参照)に、有望なアプタマーは増幅されにくい、という2つの原理的な問題を抱えます。しかし、コンピューター内進化を導入することによって、両方の問題を解決し、高機能アプタマーを探索することが可能になります。既に試験管内進化法で得た複数のアプタマーの望みの機能を、in silico maturation法により10倍以上向上させることに成功しています。

技術の特徴
(1)より結合能の高いアプタマーを獲得できる。
従来の試験管内進化法で探索したアプタマーの塩基配列をコンピューター内で何の制限もなく自由に組み換えることが可能なので、配列が全く異なる、より結合能の高いアプタマーを獲得することができます。
(2)どんな機能でも向上させることができる。
診断や創薬にアプタマーを用いる場合は、アプタマーの結合特異性や標的分子の活性の阻害能が優れていることが肝要です。しかし、従来の試験管内進化法は結合能を指標としたアプタマーの探索しかできません。結合能の高いアプタマーが、必ずしも優れた特異性や阻害能を示す訳ではなく、結合能以外の機能を向上させるのは、従来法では大変な時間と手間を必要とします。しかし、in silico maturation法では、候補アプタマーは1本ずつ合成し、その活性を実験で評価した上で塩基配列の進化を行うので、実験で評価できるのであれば、どんな機能でも向上させることができます。これまでに、CRPやPSAなど複数のアプタマーについて特異性や阻害能を10倍以上あげるのに成功しています。
(3)最終的な応用の形態でアプタマーの機能を向上させられる。
上記の特徴と少し重複しますが、アプタマーの機能を実験で評価できるので、その最終的な応用の形でアプタマーの機能を向上させることができます。ある酵素の阻害剤を開発しても、実験動物に投与すると効果がないことはよくありますが、in silico maturation法では、実験動物に投与した場合の効果を指標にアプタマーの塩基配列進化が可能です。診断の場合も、実際に使用する検出器で得られる信号の強度を指標にアプタマーの配列進化を行えるので,効率の良いアプタマーの探索が可能です。
従来技術との比較
特許出願状況
特願2009-251048 VEGFに結合するDNAアプタマー
特願2010-032342 PQQGDHに結合するDNAアプタマー
PCT/JP2010/061652 PSA BINDING APTAMER AND METHOD FOR DIAGNOSIS OF PROSTATE CANCER
研究者からのメッセージ

 アプタマーの望みの機能を、従来法で得られるものよりは向上させられます。
 具体的なターゲットをお持ちの製薬・診断関連企業との共同開発を希望します。

参考:

  • 研究室 http://www.tuat.ac.jp/%7Etanpaku/
  • Ikebukuro et al. Nucleic Acids Res., 2005, 33 (12), e108.
  • Noma et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006, 347(1), 226-231.
  • Ikebukuro et al., Biotechnol. Lett., 2006, 28(23), 1933-1937.

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