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【024】高齢化社会と自動車のあり方

【024】高齢化社会と自動車のあり方

井田 浩三

高齢化社会と自動車のあり方

 最近の社会現象の一つに、車の暴走事故があげられる。運転者は必ずしも高齢者に限られるわけではないが、それでも高齢者のケースが多い。この背景には人口構成が高齢化にシフトしている他に車造りにおける偏った性能至上主義、行政を含め社会そのものがその変化に対応できていないことがあげられる。

 高度成長期を経験した物造りの技術者はとかく技術万能で経済性と効率を優先し、飽くことのない新機能への挑戦で競争に勝ち残った方々であり、その時代では問題解決のエキスパートであったが、想定外の自然現象や英国のEU離脱やトランプ政権に見られるグローバル時代からの回帰など世の中の変化に対応しないといけないにも関わらず、高度成長期をまた一度と夢見る方々が多い。我が身を振り返って、そのように思うのである。

 20世紀と共に幕開けとなった自動車であるが、現代に出現した発明品であったとしたら、こんな危険な商品は決して販売の許可は得られるはずがないのである。1トン以上の鉄の塊が身近な生活環境のもとで時速百数十Kmも容易に加速することができる危険な代物なのだから。最近は高齢者用の携帯電話が普及されているが、自動車に高齢者用とは聞かない。運転免許をもち、実際に運転している高齢者の構成割合は高いのに、車には沢山の車種、色などの種類があるにも関わらず高齢者に適した車はないのが不思議である。

 高齢者特有の課題、すなわち運動視力の低下、視野の狭まり、敏速性・注意力の欠如などがあるものの、個人差が有り、年齢で一律に決まるものではなく、これらは年齢とともに顕在化するものの高齢者と非高齢者とに二分するものではない。誰でも高齢者予備軍であり、このような課題に対応できる機能を必要とするのである。

 営業車は別として自家用車に限ると高齢者ほどそれを必要としているとも言える。とりわけ、地方、過疎地においては尚更である。高齢者が望む自動車には強力な加速機能は無用である。最高速度も法定速度で事足りる。急発進・急ブレーキ・急ハンドルは無縁であり、バックは時速数Kmでよい。このように制御された車であれば、高齢者の事故はかなり少なくなることが予測される。このような車であれば、高齢者用というより省エネルギー運転の仕様と同じことに気がつく。何もハイブリッド仕様だけがエコなのではなく、アクセルの踏みこみや、いたずらに加速して、ブレーキを使用するのを避けるのが肝要である。
 私自身は以前からこのような運転に心がけているが、問題は後続の車が苛立っているのを見受けられることである。社会全体が高齢化社会・サスティナブル社会に馴染んでいないことの現れであるが、前方が赤信号であれば惰性でノロノロ運転しても、警笛を鳴らさない社会に変容して欲しいものである。何も全ての車をこのようにすることなく、運転者あるいは、場所に応じてボタン一つでモード切替ができれば結構なのである。

 車の他に、重大事故とならないためには道路の設備面も大事である。事故の殆どが交差点であることを鑑みると、車両の侵入を防止するはずのポールの間隔が殆どにおいて、車両の幅よりも広いのは理解ができない。せめて120cm幅くらいであったならばと思うのである。
 昔、米国アリゾナ州で車を運転していて驚いたことに、大きな駐車場から道路に出る際、一方通行の進入禁止側に乗り入れると自動的にタイヤがパンクするよう先の尖った錐みたいなものが路面に組み込まれていたのである。その時は、その大げさな仕組みに首を傾げたが、日本で高速道路を逆行する事件が再々起こると、パンクさせても逆行を阻止する方がはるかによいことに気がつく。

 要は表題の事故防止には、自動ブレーキや、自動運転車という新技術の開発は、それなりに必要であろうが、これらに短絡するのではなく、高齢化社会に向け、またサスティナブルな社会の変容に対応した要求性能と社会の変容を促す施策を含めた対策が求められていると感じるこの頃である。

2016年2月14日

著者:井田 浩三(いだ こうぞう)
出身企業:三菱レイヨン株式会社
略歴:樹脂応用技術センター、製品加工技術研究室、情報デバイス開発センター各室長を歴任して参与で退職 、埼玉大学客員教授を経て現在フリー
専門分野:光学プラスチックスの生産・加工・製品化、光学設計など
趣味:古地図研究 (日本地図学会 平成26年度学会賞受賞)

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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