NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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アンモニア酸化細菌の選択的培養技術を活用し、窒素除去性能の向上、N2O放出量の削減、汚泥減容化を図る、低コスト・省エネ型排水処理プロセスの構築

既存の排水処理プロセスで課題となっている窒素除去性能の向上、運転コストの削減、亜酸化窒素放出の削減、汚泥減溶化を目的とします。具体的には、窒素除去を担う増殖速度の高いアンモニア酸化細菌を選択培養する技術を応用し、(1)酸素供給コストを5割削減できるプロセス、(2)脱水汚泥ろ液を利用したアンモニア酸化細菌培養技術 の2つを開発し、省エネルギー型窒素除去プロセスを構築します。

研究機関・所属 東京農工大学 大学院工学研究院
氏名・職名 寺田 昭彦 准教授
研究テーマ名 窒素除去・温室効果ガス発生削減に寄与する細菌群の選択培養技術をコアとする低コスト・省エネ型排水処理プロセスの構築産
応用想定分野 排水処理プロセス
技術紹介

 産業・生活排水に含まれる窒素は、富栄養化の原因物質であり、平成21年度の我が国の環境基準達成率が依然として低い水準(湖沼で52.2%)であることを鑑みると、窒素除去技術の強化が急務です。また、窒素除去の際に放出される温室効果の極めて高い亜酸化窒素(N2O)の削減が今まで以上に求められています。これまでに、高いアンモニア酸化速度を達成し、かつN2O放出速度が低いアンモニア酸化細菌(AOB)の選択培養技術を開発しました。また、N2Oの放出メカニズムの解明およびN2Oの排出速度の少ないAOBの同定に成功しています。

 本研究では、このAOBを優占化させる新しい戦術を用いた低コスト・省エネ型排水処理技術の確立を目指します。具体的には、低コスト窒素除去である亜硝酸化、およびN2O生成削減が可能なAOBの優占化技術を導入した2つのプロセスAlternating Aeration Activated Sludge (3AS)およびActivated Sludge with a Side Stream Reactor (AS-SSR)を開発します。3ASは既存の排水処理(活性汚泥)プロセスの微改良により、有用なAOBを集積させ、大幅な酸素供給量の削減を可能にします。一方、AS-SSRは活性汚泥の返送ラインにAOB集積培養槽を設け、窒素除去性能向上および余剰汚泥削減を達成する新規排水処理プロセスです。どちらも、新規なAOBの選択培養技術の利用で、既存の排水処理施設の低コスト化・省エネ化に貢献できます。

【図の説明】 本研究で用いるAOBの選択培養法とそれを用いた排水処理技術

技術の特徴
(1)
AOBの中で特に増殖速度が高く、N2O放出量が少ない種を選別する技術を既存の排水処理施設に導入することにより、省エネ化・低コスト化が期待できます。
(2)
新規排水処理プロセス3ASは、高濃度に窒素を含む産業排水の処理に適用可能です。酸素供給量の50%、汚泥生成量の25%、N2Oの発生量の10%が削減可能であると試算しています。
(3)
新規排水処理プロセスAS-SSRは下水脱水ろ液や埋立地浸出排水など低有機物・高窒素含有排水の処理に適用可能です。余剰汚泥発生量を25%削減しつつ、窒素除去性能を最大で30%向上させることが見込まれます。
従来技術との比較

3ASおよびAS-SSRのキーテクノロジーとなる亜硝酸化を達成する方法の比較

特許出願状況

1)特願2011-120261、出願日2011年5月30日

研究者からのメッセージ

 雑多な種類で構成される複合微生物系から、特に高機能な微生物群を人為的に制御・集積することにより、既存の排水処理施設の微改良で低コスト化・省エネルギー化・温室効果ガス低減化を目指します。排水処理に必要な酸素供給は排水処理施設の動力コストの45%を占める主たる電力使用源であること、排水処理施設から生成する余剰汚泥は産業廃棄物の2割以上を占めることを鑑みると、3ASおよびAS-SSRの開発により、排水処理の運転コストの削減、余剰汚泥の削減、温室効果ガスの削減といったWin-Win-Winな革新的排水処理技術の進展に貢献できると考えています。

参考:

東京農工大学 大学院工学研究院 細見・寺田研究室
http://www.tuat.ac.jp/~hosomi/

発表論文:

1.
Inoculum effects on community composition and nitritation performance of autotrophic nitrifying biofilm reactors with counter-diffusion geometry, A. Terada, S. Lackner, K. Kristensen, B. F. Smets, Environmental Microbiology 12 (10) 2858-2872 (2010)
2.
Effect of operational regime on successful nitritation and nitrifying bacterial community in an autotrophic nitrifying bioreactor, A. Terada, S. Sugawara, M. Nishikawa, S. Zhou, M. Hosomi, Proceedings of the 4th IWA-ASPIRE Conference and Exhibition P.166 (2011)
3.
Autotrophic nitrogen removal in a membrane-aerated biofilm reactor under continuous aeration: A demonstration. K. R. Gilmore, A. Terada, B. F. Smets, N. G. Love, J. L. Garland (2012) Environmental Engineering Science 29 (12) (in press)