専門家コラム

【014】食の進化、多様化と持続性

大神 忠司

家族の小人数化、老齢化、女性の就労、そして個食化が進み、デパート地下、駅ナカ、コンビニ、スーパーなどで惣菜売り場や弁当売り場が拡大している。和洋中の分類はもとより、デザートやスイーツなど種類の多さや味のよさ、見た目の美しさなど驚くばかりである。消費者にとって簡単、時間の節約、栄養バランス、好きなものを必要な量だけ入手できるなどメリットも大きい。

一方技術面から見ても、加熱、殺菌、制菌、冷蔵、冷凍、添加物の最適利用、レシピー開発、味の客観的な評価技術そして原料処理から製造、加工、店頭までの衛生管理など進歩が著しい。包装面でも包材、形状、包装スピードのアップ、そして輸送を見ても原料調達から商品まで、きめの細かい配慮がされている。また消費者の動向調査で曜日や天候そして時間帯など詳しく分析し、返品や売れ残りの極小化を図っている。

しかしこれは一面であって、持続可能な環境にやさしいビジネスを続けるという視点で考えてみたい。

  • 原料調達段階で必要以上に規格にこだわっていないだろうか?
  • 作付けから収穫までどのように栽培されているのか知っておく必要がある。
  • 農薬や肥料の管理は当然としても連作障害や病害虫の防止はどのようにされているのか?
  • 工程中で発生するロスや廃棄物の処理法は適切だろうか?
  • 包材は最適なのか? 過剰包装でなく省資源化されているか?

これらの他に消費者が家庭で発生させる調理時のロス、多品種少量の食材を購入し冷蔵庫内や保管して使用できずに廃棄するロス、そして調理に使用するエネルギーなどを考慮すると、店頭で購入するほうが環境にやさしいと、訴えることが出来るのではないかと思う。サステーナブル農業(持続可能な環境にやさしい)の考え方を導入することも必要ではないか。これが食品ビジネスのサステーナビィティ、持続可能な環境負荷が少なくなることに、結びついていくのではないか。

こんな事例があります。

米国オレゴン州でサステーナブル農業を営んでいる農家である。GMO(遺伝子組換え)の種子は使わず、肥料は植物性の堆肥のみを使用(O157の問題が生じないよう)。施肥量は、川の富栄養化を防ぐため土壌分析を行い必要最小限に留める。トラクターはGPSを装備し、播種時点で運行パターンを作り収穫まで1インチ以下の誤差で稼働させる。除草は苗の周りを軽く耕し、草の根を掘り起こし、炎で焼き切る。収穫した農産物一時加工で発生する廃棄物は発酵させ、発生するガスを発電とボイラーの熱源として利用する。残渣は良い肥料になる。

販売する農産物加工品の包材は、回収し再利用する。鳥害を防ぐため鷲が住み着きやすいような環境を作る。高い柱の上で営巣しているのを見ると心が和む。顧客の要望を入れて品種と耕作面積を決め作付けプランを作り上げ、輪作していく。顧客の要望に沿った加工をし、顧客が使いやすい荷姿にする。そして産出された農産物は、大手加工会社やスーパーに引き取られていく。一部は中国や日本にも輸出されていく。

もちろん日本とは、農場の広さ、気候、栽培品種や量など比較しにくいことも多いが、サステーナブルな考え方は多くのヒントがあり、取り入れていくべきであろう。

2015年4月21日

著者:大神 忠司(おおがみ ただし)
出身企業:クノール食品株式会社
略歴:クノール食品(株)研究所 部長、クノールトレーディング株式会社 社長、米国ニューシーズンフーズ社 会長
専門分野:食品及び食品素材開発と加工、食品及び食品素材の輸出入(規制や制限事項など)



*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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