NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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センサレス 力制御による次世代超精密・高機能加工システム

モーターの力をモニターすることで加工力を自在に制御できるシステムを提案します。
センサ不要で小型化でき、広く工作機械のみならず、ロボット制御にも応用可能です。

研究機関・所属 慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科
氏名・職名 柿沼康弘 専任講師
研究テーマ名 力を感じる次世代超精密加工機の開発
応用想定分野 工作機械、高機能ロボットなど
技術概要

 リニアモータ駆動テーブル駆動制御系に外乱オブザーバを適用することで、加工力を指令電流と応答位置の情報から正確に計測できるセンサレス加工力モニタリング技術を開発しました。

 リニアモータ駆動テーブルに作用する加工力は、力学的モデリングにより指令推力から慣性力と摩擦力を差し引くことで求めることができます。これをブロック線図で図1のように表すことができ、下部が真の外乱オブザーバです。つまり、加工力は外乱オブザーバで推定された外乱から摩擦力を差し引くことで推定されます。
 工作機械制御系では一般にNCを用いていることもあり、従来は速度一定時(定常状態)での加工力推定を対象としているものがほとんどでした。そのため、慣性力の影響(図1の右半分からの影響)は無視し、指令電流(電機子電流)のみによる加工力の平均値推定にとどまっています(図1下部の左半分からの推定)。この方法では、圧電式力センサのように高応答な測定は難しく、エンドミル加工で一刃が加工する様子を測定するような高応答の力計測は不可能でした。
 本技術では圧電式力センサと同様に高応答な力測定を実現するために、慣性力の影響を含めたリアルタイム性のある高応答なセンサレス加工力推定が可能となっています。
 慣性力は加速度に影響するため、一般的には加速度センサを付与する必要があるが、加速度は位置の2階微分であることを考慮し、工作機械に元々取り付けてあるリニアエンコーダの位置情報から求めています。また摩擦力は、リニアモータが非接触であることから、リニアモータガイド部の摩擦力を位置に応じて同定することで求めています。

  • 図1 外乱オブザーバを用いた加工力推定の方法

 この原理に基づき制御系を設計し、リアルタイムOS 上で動作させることで、コストが高く機構上の制約が生じる力センサを用いることなく制御系内で正確かつ高応答に加工力を推定することが可能になりました。
 また、この力情報に基づいて力制御系を構成することにより、力センサを使わずに力制御が可能な次世代超精密・高機能加工システムが実現します。

技術の特徴
 現在の工作機械の制御は位置制御を基本としており、それに駆動系の負荷が過大になると警報を発したり自動停止する機能を付加する程度しかできません。これに対して、力センサを用いて最適な加工力を維持し加工力をモニタリングすることで、超精密加工及び工具折損・磨耗の予測やプログラムミス等による工具の衝突回避等の高機能化が可能です。しかし高価である上に大きな設置スペースを必要とする力センサを用いることは、コストが高くなる上に駆動系の剛性を下げたり機構上理想的な加工系が構成できない等の課題があり実用的な技術ではありませんでした。本技術は、そうした課題を解決するため、位置や加速度といったサーボ情報のみに基づいた外乱オブザーバを用いて加工系の力情報を得ることで、力センサを用いずに超精密・高機能加工システムを実現できる点に特徴があります。
本技術によるセンサレス加工力計測法が確立し、あらゆる加工機で加工力の"見える化"が可能になれば、今までその実現が嘱望されていました
等が可能になります。
さらに制御系内で計測した加工力を数値制御の回路にフィードバックすることで、力の"感じる化"が実現でき
また、正確な加工プロセスの情報を工作機械の制御器にフィードバックすることで、
従来技術との比較
特許出願状況
特願2009-122644 加工力監視システム及びそれを用いた工作機械 (2009年5月21日出願、本年11月に公開の予定)
研究者からのメッセージ

 生産工学の研究分野では、切削力などの加工力は圧電式の力センサを用いて計測するのが主流ですが、圧電式タイプの力センサは高額かつ熱などの外乱に対して影響を受けやすいことから実際の加工機に組み込まれるまでには至っていません。本提案課題の基礎技術である運動方程式に基づく「外乱オブザーバを応用した加工力オブザーバ」は、力センサを含む外部センサを全く用いずに高精度かつ高応答(圧電式力センサにはまだ及びませんが)に加工力を制御系内で計測する技術で、加工機にアドオン的に搭載できるため、コストアップを抑えて加工機に力を計測する能力を付与することができます。これにより、応用技術として、びびり振動の検出や工具の摩耗状態の予測、そして本提案課題そのものである「力を考えながらの加工」が生産現場ベースで実現すると期待しています。
 機械と制御を融合した本技術は工作機械分野のみならず、ロボットや人間支援の分野でも幅広く利用できます。グローバル社会の中で、日本のものづくりの強化に貢献できるよう、本技術の実用化と広い分野への発展を目指して取り組んでおります。

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