NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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高品質で安全性の高いリチウムイオン二次電池電解質用有機・無機ハイブリッド型イオンゲル

多糖類、ホウ素化合物、イオン液体から容易に合成される有機・無機ハイブリッド型イオンゲルは、難燃性・イオン伝導度に優れ、リチウム電池の電解質に適している

研究機関・所属 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科
氏名・職名 松見紀佳 教授
研究テーマ名 難燃性有機・無機ハイブリッド型イオンゲル電解質の設計
応用想定分野 電気自動車、ハイブリッド自動車、電子機器などのリチウムイオン電池開発
技術概要

 リチウムイオン二次電池の安全性の高い電解質として、高分子化イオン液体などの難燃性高分子と無機成分とからなる新たな有機・無機ハイブリッド型イオンゲルを、ゾルーゲル法をはじめとする幾つかの手法により調整する。有機・無機各成分に導入するホウ素化のアニオントラップ能力や塩解離を促進する能力によりイオン伝導性が優れ、有機・無機成分の双方が難燃性であることより、安全面で大きな進展が期待されます。
 各系について、イオン伝導度、直流電流値、電極との界面抵抗、難燃性など、電池用電解質として向上が望まれる諸特性を総合的に評価し、次世代のリチウムイオン二次電池の創生に貢献する材料を提供することができます。

具体的には以下の二例にて本技術を紹介します。

(1)ケイホウ酸ガラスを利用した有機・無機ハイブリッド型イオンゲル:
 アルコキシシラン、アルコキシボランの共存下でゾルーゲル反応とビニルイミダゾリウム型イオン液体のラジカル重合によりゲルが得られます。この手法がケイホウ酸ガラスという形でホウ素を極めて安定性の高い状態で容易に系に取り込むことが可能であり、ホウ酸の塩解離促進により、イオン伝導度が向上されます。
(2)多糖とホウ素との相互作用を利用した有機・無機ハイブリッド型イオンゲル:
 イオン液体中でセルロース・多糖類とホウ酸誘導体との縮合により、有機ホウ素系イオンゲルが合成されます。セルロースに良溶剤であるイオン液体中で、セルロースはホウ酸誘導体、水酸化リチウム水溶液と容易に反応し、得られたゲルは、イオンゲルの状態でも高いイオン導電性を示しています。

 有機成分と無機成分のホウ素化によるイオンゲルは、分子レベルでのハイブリッド型イオンゲルであり、双方が難燃性であることより難燃性が高く、難燃性メカニズムとして燃焼阻害により、炭化を促進することによる難燃性に効果があると考察されています。イオン伝導性が優れているのは、ペンタフルオロフェニル基によるリチウムボレートの塩解離の促進効果によると考察されています。
 これらの知見を活かして、in-situ重合法やゾル―ゲル法をはじめ,多糖とホウ酸,ホウ酸エステルとの反応を利用した手法などで各種ホウ素系有機・無機ハイブリッド型電解質を作製し,イオン伝導度のみならず直流電流や電極との界面抵抗,難燃性など,電池用の電解質として向上が望まれる諸特性を総合的に評価し、リチウムイオン二次電池の電解質や燃料電池、エレクトロクロミック素子など、電子材料分野にて広く利用される技術としても応用できることを目指しています。

技術の特徴
(1)高い安全性
 有機成分や無機成分にホウ素が導入され、いずれの成分にも難燃性を付与することが可能であるため,破裂や爆発の危険性が低く,高い安全性のリチウムイオン電池の構築に役立つと期待されます。
(2)イオン伝導度などの向上を実現
 多糖とホウ素の相互作用を利用した新しいタイプの有機・無機ハイブリッド型電解質の設計により,イオン伝導特性(イオン伝導度,リチウムイオン輸率)の向上に効果が実証されている有機ホウ素ユニットを、安定な形でイオンゲル電解質に導入できるメリットがあります。イオン伝導性は,現在実験室レベルで10-3Scm-1以上を達成しています。
(3)多糖の利用により,簡便なホウ素の導入が可能
 多糖とホウ素の塩基性条件下での縮合により,極めて簡便にホウ素を導入することが可能です。
従来技術との比較
 一般的な電解質は、エチレンカーボネートとジメトキシエタンの混合溶媒をはじめとする各種有機溶媒やそれを含有する高分子ゲルであり、揮発性・可燃性のために電池の短絡が生じたときに破裂や爆破するなど安全性に課題があります。
 そこで、有機ポリマーの固体電解質が種々開発されてきているが、イオン伝導度を高めることが難しい現状であります。
 本技術では、難燃性に関しては、有機溶媒を用いていないことより揮発性や可燃性ではなく、難燃性の特性を持つホウ素やフッ素を用いており、難燃性に優れています。
 イオン伝導度に関しては、イオンゲルであること、ホウ素によるリチウムイオンのアニオントラップ効果や塩解離効果により、実用レベルまで到達していることを確認しています。
 そこで、固体電解質として、従来手法の電解質技術と比較した結果を表に示します。

  • 表 本技術と従来手法との比較表
特許出願状況
・特許公開2004-263004 ポリマー、並びに、これを用いた電解質及び電気化学デバイス(2003年2月28日出願)
・その他 2010年5月出願、2010年8月出願 (2010年9月1日時点では、公開されていない)
研究者からのメッセージ
 電解質への難燃性付与に関して特に期待されているので、リチウムイオン2次電池の安全性を大幅に改善することができます。 自動車関連、電池関連企業との共同開発を希望します。

参考:

松見先生プロフィール:
http://www.jaist.ac.jp/profiles/info.php?profile_id=572

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