NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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非加熱化学処理による複合汚染土壌の浄化

PCBやダイオキシンなどの汚染物を容易に安全に無害化できる技術です。
新規ナノ粒子化金属カルシウム分散体を用いることで、常温近くの温度で低コストで高効率な処理が可能です。

研究機関・所属 県立広島大学 大学院総合学術研究科 生命システム科学専攻
氏名・職名 三苫好治 准教授
研究テーマ名 金属カルシウムのナノ分散体によるPOPs含有複合汚染物の無害化における投入エネルギー最小化に関する研究
応用想定分野 PCBs汚染物・ダイオキシン汚染物などの分解や重金属不溶化などを行う事業分野
技術概要

 ダイオキシン類やポリクロロビフェニル類(PCBs)に代表される残留性有機汚染物(POPs),揮発性有機化合物(VOC),及び/又は,重金属類によって引き起こされた土壌の複合汚染は近年深刻な社会問題となっております。従来の対策技術は加熱処理を施す浄化法が一般的ですが,今後は,処理効率を維持しつつ,投入エネルギー量を如何に削減するかが最大の課題となります。このような背景の下,大気中で取り扱いが容易で,かつ,高い還元能力と土壌固化能力を有する金属カルシウム(Ca)ナノ分散体により,常温下,複合汚染土壌をワンポットで同時に無害化する新技術を提供します。

技術の特徴
(1)無害化の機構
 金属Caナノ分散体は,アルカリ土類系の0価金属特有の強い還元力とCa系薬剤の土壌凝集力を兼ね備えた新規土壌改質・処理剤です。前者の還元機構が主な土壌改質の機構となります。このプロセスでは脱塩素反応が起こり、有機塩素化物中の塩素は無機塩素となってCa塩を形成します。一方、分解後の有機物は塩素と水素が置換した化合物となります。水素は土壌の間隙水あるいは大気中から供給されます。
 これまでの脱塩素化反応には,メカノケミカル処理に見られるような強力な装置により外部からエネルギー供給を行う必要がありました。しかしながら,大気中で安定な金属Caナノ分散体の開発により,飛躍的に温和な条件下で高効率な脱塩素化反応を連続的に進行させることに成功しました。ナノ粒子化した金属Ca粒子の活性表面の更新は,撹拌などの弱い物理エネルギーの供給で可能です。他方,有害重金属類においても,金属Caナノ分散体の効果により, 処理物中からの重金属溶出を抑制します。
(2)温和で簡便な処理
 処理対象土壌に対する金属Caの使用量は1重量%以下でよく,常温で,大気開放下,撹拌/混練,あるいは混練後静置により汚染土壌の浄化が進みます。さらに,投入Ca量以上の間隙水が存在する土壌中においても金属Caナノ分散体は高い脱塩素効率を持続し,重金属塩類が共存する場合には同時に重金属不溶化効果を示します。さらなる高度処理が必要な場合は,既存の重金属固化工程などとの組み合わせが容易であり,より広範な汚染土壌に適用可能です。処理残渣中では金属Caは水酸化物になるため,資源化プロセスへの移行が容易です。また,一般的に金属粒子をナノ化すると高活性となる半面,ハンドリングに課題を残していましたが,本技術による金属Caナノ分散体は, 常温常圧の大気中でも発火することなく,1カ月以上性能が維持されます。
(3)処理効率
 脱塩素化効率や重金属不溶化効率は処理対象土壌の含水率に影響を受けますが,土壌中に間隙水が存在しても高度な分解効率を維持します(表1のEntries 1~3, 5)。低濃度PCBsが土壌に分散した実汚染土壌についても99%以上の分解効率を達成しました(Entry 4)。

表1 金属Ca分散体による汚染土壌中のPCBs分解
 複合汚染土壌の処理では,予め第二種特定有害物質(重金属とそれを含む化合物)のうち,Pb,As,Cd,Crを溶出基準値の約100倍量を添加しておき,処理前後の溶出変化量を比較しました。ヒ素,カドミウム,及びクロムについては,処理後の溶出量は,いずれも溶出基準をクリアすることを確認しました。図1に,重金属不溶化効率に関する成果の一例を紹介します。
  • 図1 各種処理前後の重金属溶出量.
    JLT46土壌溶出試験; ICP(VARIAN社製,720ES)分析値.
従来技術との比較
特許出願状況
特許出願番号:2010-006074,有機ハロゲン化合物を含有する固体の無害化方法
研究者からのメッセージ
 主として,装置開発メーカー及び具体的汚染物の処理を計画する企業との共同研究を希望しています。

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