NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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大気圧ガスプラズマを用いた地球温暖化ガスの高効率分解処理装置

手術用の麻酔ガス(笑気ガス)への環境対策の先取り: 笑気ガス(亜酸化窒素)の地球温暖化係数は二酸化炭素の約300倍あります。この温暖化ガスを、大気圧プラズマを使用することにより、手術室に置けるような簡便な装置で安価に処理できるようになりました。

研究機関・所属 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻
氏名・職名 沖野晃俊 准教授
研究テーマ名 大気圧マルチガスプラズマ源を用いた地球温暖化ガス高効率分解処理装置の開発
応用想定分野 手術室からの亜酸化窒素排ガスの無害化処理、工場・実験室の排ガスの処理
技術概要

 麻酔ガスに用いられる亜酸化窒素(笑気ガス)は,二酸化炭素の約300倍の温暖化係数を持つ地球温暖化ガスであり,また最大のオゾン層破壊物質とされています。しかし,国内では1年間に約800トン(二酸化炭素換算で約24.5万トン)の麻酔ガスが,ほとんど未処理のまま大気中に放出されています。開発した装置では,手術室から排出される亜酸化窒素排ガスを,簡便・小型な装置で99.9%以上分解し,無害化することが可能となりました。

 沖野研究室で開発された大気圧マルチガス熱プラズマ源は,アルゴン,ヘリウム,窒素,酸素,二酸化炭素,亜酸化窒素,空気及びそれらの混合ガスを大気圧下で安定して熱プラズマ化することができます。今回開発した麻酔ガス分解装置では,このプラズマ源を用いて小体積の高温高密度プラズマを生成することで,触媒法による従来装置に比べて5倍以上高いエネルギー効率で麻酔ガスを分解処理することができます。プラズマを生成するための追加のガスや貴金属触媒や燃料も必要なく,かつ二酸化炭素の排出もありません。この手法を用いた処理の問題点としては,二酸化窒素の発生があります。その量は手術室1室あたり,31 g/hr程度の微量ですが,本研究ではプラズマの急冷により1/15に,さらに,排ガスの水処理で1/10以下に低減することにも成功しています。

  • 【図の説明】 手術室1室分の麻酔ガスを処理する大気圧熱プラズマ処理試作装置
    (亜酸化窒素:4 L/min,酸素:2 L/min,空気:4 L/min,プラズマ発生管の直径:約5 cm)
技術の特徴
(1)
亜酸化窒素,酸素,空気の混合ガスを直接熱プラズマ化することができます。
(2)
直径5 cmのプラズマトーチで,手術室3室分の量の麻酔ガス分解に対応しています。
(3)
亜酸化窒素の99.9%の分解率を達成しています。
(4)
819 g/kWhの高い分解率(従来装置の5倍以上)を達成しています。
(5)
電力のみを使用します。追加のガス,貴金属触媒,燃料などが不要です。
(6)
複雑な機構を必要としないため,コンパクトな設備で省スペース化を実現できます。また,装置コストやランニングコストを従来装置に比べて大幅に低減できる見込みです。
従来技術との比較
特許出願状況
大気圧プラズマを用いた亜酸化窒素の分解に関する特許出願はありません。
研究者からのメッセージ

 これまでに、触媒法や燃焼法を用いた麻酔ガス分解処理装置が開発・市販されていますが、装置コストが高い、装置サイズが大きい、触媒や電力、燃料などのランニングコストが高いといった問題があり、普及には至っていません。これらの問題点を踏まえて開発した本装置は、"小型"、"低価格"、"高効率"という特長を備え、医療施設への設置がより容易になったと期待されます。

 本装置の実用化により手術室への導入が進めば,地球温暖化ガスの低減に寄与することができます。今後は,さらなる分解効率の向上や装置の小型化を行うとともに,共同研究者である岐阜大学医学部の小倉真治教授と協力して,病院での実地試験を行う予定です。また,手術用麻酔ガスにはハロゲン元素を分子内に含むセボフルランあるいはイソフルランを混合して使用される事があり,従来装置ではこれらを事前除去してから亜酸化窒素を分解する必要がありました。しかし,熱プラズマ源ではこれらの物質を亜酸化窒素と同時に分解処理できる可能性があるため,これらの処理実験も継続していきます。

参考:

東京工業大学 沖野研究室
http://www.es.titech.ac.jp/okino/index.html
新しい大気圧プラズマ発生装置の 開発と高度利用
http://www.pc-tokyo.co.jp/pdf/1005OkinoLab.pdf
大気圧マルチガス熱プラズマを用いた 手術用麻酔ガスの高効率分解処理
http://vips.es.titech.ac.jp/pdf/100223-meeting/tamura.pdf

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