NEDO 若手研究グラント平成21年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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100年来の定説〜成熟神経細胞は増殖しない〜を覆し、さらにその応用へ

中枢神経系の神経細胞の大量増殖培養技術の確立により、神経回路網の再生が可能となります。脳梗塞、アルツハイマー病等の再生医療の可能性に通じます。
移植するための担体材料・固定化技術の開発とそれらを応用した神経系医薬開発のスクリーニングシステムの構築が可能です。

研究機関・所属 東京医科歯科大学 脳統合機能研究センター
氏名・職名 味岡逸樹 准教授
研究テーマ名 中枢神経系神経細胞を増殖させるための培養技術と移植マテリアルの開発
応用想定分野 脳梗塞、てんかん、アルツハイマー病等の再生治療
移植マテリアルの医薬スクリーニングシステムへの応用
技術概要

 神経細胞は神経解剖学の創始者といわれるR. y Cajalによって「成熟神経細胞は再生しない」と唱えられてから約100年経過しますが、最終分化を終えた神経細胞が増殖能を持つか否かは謎のままでした。
 しかし、本研究者は、最終分化を終えた神経細胞が脱分化することなく増殖しうることを見いだしました。この事実は脳神経分野における画期的な研究結果といえます。 一方、高齢者社会では脳梗塞、てんかん、アルツハイマー病(これらは高齢者に限りませんが)等大脳皮質関連の患者さんが多数おられます。大脳皮質は認知、運動、記憶、思考など、脳の高次機能に関係しています。上記の研究結果を基盤として、最終的には各種脳障害に苦しむ患者さんの治療を目指しています。

 本研究での目標は、これまでの結果を基にして以下の2テーマに大別できます。

(1)中枢神経系神経細胞を大量に増殖させる増殖培養技術の確立。
・本技術はこれまで旋回培養法を使用し検討を進めてきましたが、今後の実験でより優れた大量培養法の確立を目指します。
・図1・右図の「本方法のアイデア」に示す方法により、最終分化に至った目的の神経細胞を増殖させ大量の神経細胞を取得します。これは元の神経細胞のネットワークを復元するための重要な条件です。
 従来からの幹細胞等を利用する方法(図1・左図)では、幹細胞を増殖させ大量の幹細胞を得ることはできますが、目的の神経細胞だけを分化させることは困難であり、再生に必要な神経細胞のネットワーク形成が困難だと考えられます。
  • 図1
(2)脳神経細胞の脳移植材料の開発
・図2に示すように、脳梗塞を発症した患者さんの脳から、残存している神経細胞を回収し、上記方法で増殖させます。すなわち、梗塞領域の神経細胞をまとめて外科的に摘出することになります。この細胞を移植マテリアル(例:スポンジ)上で増殖培養を行い、移植マテリアルごと元の脳の部位に移植します。
・上記脳移植の他の応用としては、中枢神経系医薬品開発のためのスクリーニングシステムが挙げられます。例えば、96穴プレートに同一の神経細胞を培養し、これに開発中の化合物を加え、その効果を指標にスクリーニングすることで医薬候補を選別できます。
 また、移植マテリアルは梗塞領域に血管を引いてくるものを目指しており、最終的には脳梗塞の患者さんの治療を目指しています。
  • 図2
技術の特徴
(1)中枢神経系神経細胞を増殖させるための培養技術
・本研究者は、最終分化したマウスの網膜水平細胞が、最終配置部位に到達した後でも増殖しうることを明らかにしています。大脳皮質神経細胞も網膜神経細胞と同様に脳室帯の神経系前駆細胞から生み出され、非常によく似た性質を持ちます。
 この移植方法は「移植細胞置換型」の再生医療への新たな戦略と考えられます。
・移植を目的とする部位の神経細胞を外科手術で取り出し大量増殖培養し、それを元の部位に移植します。
・移植する患者さん本人の神経細胞を大量培養し移植するので拒絶反応もなく安全であり、倫理的問題もクリヤーできます。
・培養方法は旋回培養法も含めより効率がよい方法の検討を進めます。
(2)移植マテリアルの開発
・移植担体として、三次元構造の多孔性でフレキシビリティのある物質を利用することです。それに大量の目的とする神経細胞を培養させ三次元培養をすることです。
・96穴のプレート上の神経細胞に開発中の中枢神経系医薬をふりかけることで、医薬のスクリーニングが可能になります。

 以下の表のように、従来の脳梗塞に対する治療法は、神経細胞死を抑制する方法(従来技術1と2)と神経細胞の電気活動を活性化させる方法(従来技術3)とに大別されます。しかしながら、どちらの方法でも残存する神経細胞は減る一方なので、短期的な治療効果しか得られないのが現状です。また、幹細胞移植(類似技術)では特定の神経細胞を効率よく分化させることが困難なので、治療効果を上げることは難しいと考えられます。
 本提案技術では、神経細胞そのものの数を増やす方法であるため、従来技術や類似技術に比べ、画期的な効果が期待されます。
 なお、神経細胞が増殖可能なことは、本研究者らにより数年前に明らかにされたに過ぎず、現段階では競合技術は存在しません。

従来技術との比較
  • (*)研究フェーズ:1基礎研究、2開発研究、3実用化研究
特許出願状況
現在はありません。
研究者からのメッセージ

 本NEDOプロジェクトのように大学や公的研究機関における若手の研究者の研究を産業界との連携で共同研究が可能になることは大変喜ばしいと思っております。
 自分は工学部出身であり、常に研究結果を公表するとともに権利化し、出来れば開発研究から実用化・商品化できるようになることに期待しています。

 研究テーマ(1)に関しては、製薬会社との連携を希望しています。特に中枢神経系の医薬の研究開発を実施している研究所における基本技術として利用可能であり、共同研究を希望しています。
 研究テーマ(2)に関しては、細胞の担体は重要な移植技術の要素であり、また医薬開発におけるスクリーニングシステムに応用できるので、製薬会社よりもベンチャーと連携し、よりよいシステムを構築したいと考えています。
 現在の自分の大学におけるポジション、研究施設は共同研究者として企業からの派遣を受け入れることは充分可能です。

参考:

1.研究者情報
http://aqua.tmd.ac.jp/ResDB/DispRsch/dsp_resdata.php?id=1462&la=ja
2. Itsuki Ajioka, et. al.:Differentiated Horizontal Interneurons Clonally Expand to Form Metastatic Retinoblastoma in Mice. Cell Vol.131, 378-390 (2007)
3.味岡逸樹、仲嶋一範:大脳皮質層形成機構の解明とその応用
再生医療 Vol.5(4),476-482 (2006)

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