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 株式会社 IBLC

【032】日本企業はいかにして成長するか

【032】日本企業はいかにして成長するか

竹田 守

日本企業はいかにして成長するか

 日本経済は、1993年にバブルが弾け2011年の東日本大震災にかけて、失われた20年と呼ばれるデフレ経済に苦しんできた。技術立国として世界経済を牽引した日本企業が、なぜ今の状況に陥ったのか経緯を振り返り、今後いかにして成長すべきか考えてみた。

失われた20年
 日本は1960年の東京オリンピックや1970年の大阪万博を開催し、奇跡の経済復興を遂げた。その後二度(1973年と1979年)のオイルショックを経て、欧米が金融引き締めを行ったにも関わらず、積極的な景気刺激策により日本は産業活性化をはかった。結果、鉄鋼産業、自動車産業、半導体産業などを大きく発展させた。ソニーのウオークマンは、世界を席巻し、アップル創業者スティーブジョブスにも大きな影響を与えた。米国で誕生した半導体産業もIC化、LSI化が進み、日本の電機メーカーが世界に飛躍していった。Japan as No1と呼ばれた時代である。
 当時貿易赤字と財政赤字という双子の赤字を抱えた米国は大きく成長する日本に強い脅威を覚えた。報復として1985年プラザ合意により、円高ドル安へ誘導するが、日本は、電機メーカーのみならず、自動車メーカーも鉄鋼メーカーも対米輸出を拡大し続ける。国内では不動産価格や株価が急騰するバブルに突入していった。企業も政府もグローバル化する経済の歪を気にせず、輸出貿易に邁進してしまう。結果、米国から貿易不均衡とも言える強い経済パッシングを受ける。90年代は韓国台湾を中心とし2000年代には中国の経済成長を、日本企業は生命線の技術をどんどん流出させて勢いづかせてしまう。
 バブル崩壊後、金融機関の不良債権処理と消費税増税という緊縮政策によりデフレへ突入していった。米国からの経済バッシングと円高誘導により、20年の長きにわたるデフレ経済にのめり込んでしまった。技術流出をしてしまった日本企業、特に電機メーカーは世界経済での存在感を韓国・中国企業に奪われてしまった。
 2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災を経た今、日本企業は立ち直りの兆しをみせている。しかし2016年にはシャープが台湾メーカー鴻海に、今年は東芝のメモリー事業が日米韓連合に売却されようとしている。それまでも多くの日本企業が中国に買収され、技術流出が加速している。三洋電気の家電がハイアールに、東芝の家電が美的集団に、富士通PC事業はレノボに買収されてしまった。そして今、エリクソンの通信事業を買収したファーウエーが日本に工場建設を予定している。米国がスパイ容疑をかけ、官僚にはPCを使用禁止にした企業である。この現実を踏まえないと、目先の利益だけの中国展開は、中国に日本技術が流れるだけだろう。

今世界経済で何が起きているのか
 世界の工場といわれた中国では、過剰生産した粗悪な鉄鋼製品の在庫を抱え倒産が相次いでいる。中国内では倒産デモも頻発している。GDPも6%強と報告されているが、実際は貿易収支からみると三分の一以下と言われる。車の生産も国内2300万台需要に対し、5600万台の過剰生産が続く。EUで好調といわれるドイツも中国依存が強く、中国マネーを多く扱うドイツ銀行は多額の不良債権を抱える。
 欧米経済が不安定化し中国経済が減速する中、日本と米国は少しずつ経済が安定してきている。米国はグーグル、アマゾンといったIT大手企業が業績を伸ばし、自動車配車企業ウーバーなどの「ユニコーン」企業が成長している。日本も省エネ・IT社会向けに、飛行機の軽量化用の炭素素材事業や、電気自動車事業、そのための蓄電池、燃料電池事業などが立ち上がろうとしている。
 競争力を保つには、内部で培った技術をしっかり守り抜くことが肝要である。円高に対応するには信頼できるパートナーと強固なSCMを構築しておくことである。日本企業の強みは、泥臭い改善を組織として継続できることである。誠実で真摯な国民性にある。日本のお家芸であったD-RAM事業は、サムソンに首位を奪われた。それは90年代初頭にF社半導体技術者チームが行ったサムソンへの技術流出から始まる。週末の韓国行飛行機は日本技術者で満席だったと聞く。液晶技術も電池技術もLED技術もそうである。
 これらの技術は開発から量産に至るまで、ほとんどが20年もの期間を有している。多くの技術者人生をかけた努力の歴史である。数多くの基礎科学技術と生産機械・製造ノウハウが詰まっている。液晶事業を例にとると、スイッチング素子である非晶質Siを用いた薄膜トランジスタ(a-Si:TFT)の動作確認だけで5~6年苦労している。SiH4ガスを使用するP-CVD技術の確立であった。しかしTFT-LCDを生産するには、基板であるガラス材料、画素電極の透明電極であるITOのスパッター技術とターゲット材料開発。通電時に高インピーダンスが必要なネマティック液晶材料、配向のためのポリイミド材料、カラー表示のためのカラーフィルター材料、光の透過制御のための偏光板技術、偏光したs波p波で使用しない片方の偏光を使用可能にする光学フィルム(D-BEF)、そして液晶パネルの後ろから照らす冷陰極放電管と導光板技術など、生産プロセスを含めゼロからの開発が日本で行われてきた。その貴重な技術、生産装置そして技術者が、デフレで円高の日本から韓国にただ同然で流出していったのである。
 2000年後半からは中国で同じ現象が始まる。非常に残念なことである。経営者はよきパートナーと信じたはずである。実際は政治権力と強くつながっているのが実情である。鴻海、アリババなどその典型である。この事実を日本はよく噛みしめるべきである。米国もアップル技術やウーバー事業の流出を経験し、この事態に気が付きだしている。

日本企業の強みを活かして世界に貢献
 多くの技術が韓国、中国に流出してしまった。しかし長期メンテナンスを保障する事業は、彼らでは継続できないと考えられる。インフラ関連事業や長期間使用する商品の事業は、泥臭いが、積み上げた技術の改善を継続する必要がある。蓄電池一つとっても、多数電池で構成する組電池を性能と安全性を長期保障する必要がある。現在米国テスラ社が一回充電で400km程度走行可能な電気自動車や系統に接続した発電を事業化している。そこには数1000個のLi二次電池組電池が装備されている。二次電池は充放電を繰り返すごとに、充電量が少しずつ低下していく現象を有する。システム制御と同時に個々の電池性能管理を使用末期まで適正管理されなければならない。電池はエネルギー保存デバイスであるため制御誤動作は大事故につながる。スマートフォンやPCでの電池事故でも大変なのに、大電力を有する電気自動車や発電所ではただでは済まない。
 蓄電池に使用されるLi二次電池には様々な技術が投入され、安全管理が行き届いたプロセス管理で製造される。イオンを移動させる電解液、正負の電極材料、酸化リチウム材料、紛体、塗装技術、セパレーター材料、電極シート切断工程、それらを支える生産設備、安全性管理などなど。挙げていけば、きりがない。
 これら大変な技術が連綿と改善されていくことが要求される。電池に限ったことではなく、インフラに関わる事業は全てそうである。最近普及しだしたLED照明も同様である。寿命末期にLED器具でショートすれば、大事故につながりかねない。ブレーカーが飛べばよいが、火災事故にもなりかねない。

 苦労した技術は、手を尽くし守り抜こうとしても、部外に流出してしまうかもしれない。しかし、継続した改善努力というものは、そう簡単にできるものではない。基礎的な科学を理解し生産を続けるには、地道な努力でしかできない。経営者も技術者も、企業活動に関わる全ての職能、そしてSCMに関わるパートナーと健全な協力関係でしか社会を幸せにできないと強く思う。これをやり抜くことが日本企業の責務である。2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピックを契機に日本企業が再び世界に大きく貢献することを信じて、未来を切り開いていきたいものである。

2017年8月15日

著 者:竹田 守(たけだ まもる)
出身企業:松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)
略 歴:TFT-LCD開発に従事。開発品を石川工場(現JDI)にて事業展開。その後全社電子部品開発責任者を歴任。PDP-TV開発、Li二次電池開発、LED照明開発を担当。
社外の一般財団法人照明学会 関西支部長、一般財団法人日本電球工業会 技術委員長にてLED照明普及に努める。公益財団法人 環境技術研究機構に副所長として出向。現在、三重大学、福岡工業大学の非常勤講師。
専門分野:薄膜プロセス技術、ディスプレイ技術、照明技術。電子部品の設計、プロセスに関する物理化学解析を得意とする。

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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