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No.【031】C型肝炎を完治が目指せる疾患とした新薬の登場

No.【031】C型肝炎を完治が目指せる疾患とした新薬の登場

小口 しのぶ

C型肝炎を完治が目指せる疾患とした新薬の登場

はじめに
 2014年10月に世界に先駆けて米国で発売されたC型肝炎の飲み薬は、これまでにない劇的な効果を示しC型肝炎疾患は完治が目指せる疾患となった。そこで本コラムでは、この驚くべき治療効果をあげる新薬を次々と市場に産出し、C型肝炎治療薬の市場をリードしている米国のギリアド・サイエンシズ社(Gilead Sciences Inc.※以下、ギリアド社)に注目し記載する。

インターフェロンからインターフェロンフリーへのシフト
 1989年に米国の研究者(Choo et al.,および Kuo et al.,)が感染チンパンジー血漿からC型肝炎ウイルスの遺伝子断片を発見した。1992年よりウイルス増殖を抑制する「インターフェロン」をC型肝炎の治療薬として多くの医薬品が販売され、主たる治療薬として利用されている。2005年に感染性ウイルス粒子を培養細胞で作製する技術が確立された(Wakita et al.,および Zhong et al ., 2005, Lindenbach et al .,)ことから、C型肝炎ウイルスの研究が容易に行うことが可能になった。これにより『インターフェロンフリー』の医薬品開発が急速に進んだ。2014年10月にギリアド社が世界に先駆けて米国で発売を開始した『インターフェロンフリー』の経口剤「商品名:ソバルディ錠、一般名:ソホスブビル *以下、ソバルディ」と、「商品名:ハーボニー配合錠、一般名:レジバスビル アセトン付加物・ソホスブビル*以下、ハーボニー」がC型肝炎治療を『インターフェロンフリー』にシフトさせた。
 「インターフェロン」は、C型慢性肝炎患者の40~70%の治癒率であった。それに比べ、『インターフェロンフリー』と区分される新薬の「ソバルディ」、「ハーボニー」は、約95~100%の患者でウイルスが駆除されほぼ完治し、また、重い副作用もないという素晴らしい効果を示している。治療方法も飲み薬の経口剤であり服用量・回数は1日1回1錠を12週間投与であることから、病院へ通院し注射や点滴を受ける必要もなく患者への身体的な負担がないなど非常に画期的である。C型肝炎を発症させるウイルスには異なる遺伝子型が存在し、日本人はこれまでの主たる治療薬である「インターフェロン」の効果が低い1b型が70%、2a型が20%が、2b型が10%と分布される。「ハーボニー」は1b型を、「ソバルディ」は2a型を治療対象としており、日本におけるC型肝炎ウイルス罹患者の90%が対象として該当する。

ギリアド社発売初年度の驚異的な稀にない売上高
 日本では2015年5月に「ソバルディ」が、2015年8月より「ハーボニー」が発売開始された。日本での発売当初の薬剤価格は「ソバルディ」は1錠が約6万円、「ハーボニー」は1錠が約8万円と非常に高額であった。高額な薬剤であるにもかかわらず「ハーボニー」と「ソバルディ」は高い治癒率を示すことから、治療を心待ちにしていた日本の多くのC型肝炎患者への治療に用いられ、「ハーボニー」は2015年9月に発売が開始されてから6ヶ月で約2,500億円の売り上げ、「ソバルディ」は2015年5月からで約1,400億円と驚異的な売り上げを上げ、2015年の日本国内での売上高第二位となった。
日本では医療費高騰の問題としても取り上げられ、「ハーボニー」と「ソバルディ」は市場規模が1,500億円を超える拡大が想定されることから特例拡大再算定に認定された。4月の薬価改定により量薬剤の引き下げ率31.7%となり、「ハーボニー」は約55,000円、「ソバルディ」は約42,000円となった。薬価改定後の売上高は、2016年9月までの9か月間で「ハーボニー」が約1,600億円、「ソバルディ」は516億円と減少した。
 世界売上高を見ると、「ハーボニー」は2015年に2138億6,400万ドルであり、2014年10月に米国で発売を開始してから僅かな期間で驚異の稀にない業績増額を示し、世界第二位の売り上げとなった。しかし、2016年度第3四半期世界累計売上高は74.4億ドルとなり、前年同期と比較すると29.3%の減少となった。「ソバルディ」も2016年度第3四半期世界累計売上高は34.6億ドルとなり、前年同期と比較すると7.2%の減少となった。
 ギリアド社は2016年に入り、C型肝炎ウイルスの主要な6種類すべての遺伝子型に対応する新薬「Epclusa(sofosbuvir400mg/velpatasvir100mg) ※以下,Epclusa」を、このタイプのC型肝炎治療薬としては初めて米国や欧州で承認され、2016年6月に米国で、7月に欧州で販売が開始され高い注目を集めている。米国での定価は12週間投与で7万4760ドル(約767万円)とされている。日本国内では現在フェーズ3の治験試験中である。ギリアド社はこの高く期待をされていた新薬「Epclusa」の発売を開始することで、売上の増強を計画していたが、C型肝炎治療薬3剤の総額売上は2016年第1四半期の43億ドルに対し、2017年第1四半期は26億ドルとなり減少した。

インターフェロンフリー治療薬が続々と登場
 ギリアド社の驚異の売上高が一転し次年度より減少の背景には、ギリアド社以外の製薬企業から新規『インタフェロンフリー』経口剤が続々と登場していることが影響していると考えられる。以下に日本での販売状況を紹介する。
1)2015年11月に第3の新薬「商品名:ヴィキラック配合錠、オムビタスビル水和物/パリタプレビル水和物/リト ナビルの配合錠(アッヴィ社)」が登場した。服用量・回数は、1日1回、2錠を経口投与し、治療期間は12週間である。発売当初に薬価は、1錠26,801.20円であり1日2錠服用なので一日あたりの薬価は53,602.40円であった。2015年の4か月間の売り上げは約55億円、2016年4~6月には早くも100億円を超え、2016年の薬価改定にて市場拡大再算定品目に指定され、薬価が14%引き下げられた。
2)2016年11月にMSD社(メルク(Merck & Co.)が北米以外で用いている社名)が「商品名:エレルサ、一般名:エルバスビル」、「商品名:グラジナ、一般名:グラゾプレビル水和物」を発売した。薬価はグラジナが1錠 9607.30円、エレルサは1錠 2万6900.50円である。グラジナは100mg(2錠)を1日1回経口投与(1日薬価約19,000円)、投与期間は12週間、エルレサと併用する。
3)2016年12月にブリストル・マイヤーズスクイブ社が新規「ジメンシー配合錠、アスナプレビル、ダクラタスビル、ベクラブビルの配合剤」の製造販売承認を取得した。本治療薬は、1回2錠を1日2回食後に服用し投与期間は12週間である。2017年2月に薬価が収載され1錠約11,500円(4錠/1日の薬価は約46,000円)である。
4)さらに今後販売が開始される予定のアッヴィ社のC型肝炎のすべての遺伝子型を対象とした「Glecaprevir【グレカプレビル水和物】/Pibrentasvir【ピブレンタスビル】 ※以下、G/P」である。2017年2月に米国食品医薬品局(FDA)で優先審査に指定され、承認申請が受理された。2017年1月には欧州医薬品庁(EMA)でも迅速審査に指定され、医薬品販売承認申請が受理された。2017年2月に日本国内においても製造販売承認申請がされた。この「G/P」はC型肝炎のすべての遺伝子型を対象とししている点と、さらに従来の治療期間よりも3週間も短い8週間(1日1回服薬)である。
 2014年にギリアド社が米国で発売を開始して以来、競合各社は更なる進展を遂げた治療薬を次々市場に産出し続けている。今後どこまで開発競争が進むか注目したい。

後進国でのインターフェロンフリー治療を可能にしたギリアド社の対応
 世界のC型肝炎ウイルス感染者は世界保健機構(WHO)によると1億5000万人と言われ、その内の約50万人が毎年肝硬変・肝がんで死亡している。特に途上国に多く存在しインドでは1200万人が感染しており、C型肝炎を完治が可能なギリアド社の新薬「ソバルディ」の使用が高く望まれていた。しかし、米国での価格は1錠が約1000ドルであるように、先進国と同様の価格では利用が不可能である。そこで、ギリアド社は途上国への貢献として、自社が認めた途上国の後発品製薬企業に対し、「ソバルディ」はまだ特許有効期間であるが、これらの後発品製薬企業へロイヤリティを売上高の7%とする非常に安価なライセンス費用で製造・販売のライセンスを供与すること2014年9月よりインドの7社へ供与を開始した。2016年3月には合計11社へと増加させた。インドでは1錠4.29ドルの安価な価格での販売を可能にしている。また、これらの後発品製薬企業が後発品を販売できる国は、ギリアド社の基準で設定した途上国101か国に限ることとし、それらの国に販売するためには対象国の政府と販売契約を結ぶことを条件としている。

ギリアド社のトピックス
 ギリアド社がメディアを賑わせた上記以外のトピックスを紹介したい。
1)現在C型肝炎治療薬の市場のリードに至ったC型肝炎治療薬は、2011年にまだ製品になる率が低い臨床初期段階でファーマセット社を約110億ドルで買収することで権利を得た。買収時は高額すぎリスクが高いといわれていたが、ギリアド社は買収当時に「14年末までの減益要因となるものの、その後は利益に貢献する」と説明していた。
2)C型肝炎治療薬に関連する米国の特許をめぐって、メルク社がギリアド社を訴えた裁判がおきていた。2016年12月にギリアド社はロイヤリティとして「ソバルディ」と「ハーボニー」の売上高254億ドルの10%に相当するロイヤリティーの支払いを命ずる判決が下りた。米国の特許侵害訴訟で認定された額としては最高の額となった。
3)日本では2017年1月に「ハーボニー」の偽造品が発見されニュースでも大きく報道されていた。この偽造品はギリアド社の正規取引以外での流通であったが、「ハーボニー」の包装が日本の薬剤包装としては珍しくボトル包装であったために、流通経路において偽造品を発見しづらかったと思われる。厚労省によると偽装品は形状や色が異なっているという。ギリアド社はこの偽造品の防止策として、2016年10月に製造承認を取得した視覚的に内包の薬剤を確認しやすいブリスター(PTP)包装での販売を2017年3月より開始した。

C型肝炎治療の今後の課題
 C型肝炎ウイルスは、感染後、自覚症状を示さぬ状態で約20年後に30~40%の人が慢性肝炎から肝硬変に移行し、その多くが肝細胞がんを発症する。日本におけるC型肝炎ウイルス感染者は100万~150万人と推測されている。その内の40%は未検査・未治療であり、肝細胞がんからなる肝臓がんは年間約3万人が亡くなり死亡率が高い。C型肝炎ウイルスの除去5年後、10年後の発がん率は現在のところ完全なゼロではない。「インターフェロン」はウイルス除去率を完全除去には至らないが抗がん効果を有しているが、『インターフェロンフリー』は早期のウイルス除去と発がん率との関係はまだ現時点では明らかではない。本点は『インターフェロンフリー』の今後の大きな課題である。

2017年7月15日

著 者:小口 しのぶ(おぐち しのぶ)
国立がん研究センターや産総研等にて約10年間主に癌の基礎研究に携わり、その後約10年間は産総研、東京大学や京都大学のシーズを基にした先端的な診断薬・研究用試薬・医薬品事業開発を行うバイオベンチャーを立ち上げ、社長業兼研究開発・事業推進に奮闘した。また兼務にてJST(科学技術振興機構)CRDS(研究開発戦略センター)井村裕夫主席フェロー/臨床医学ユニットにて約5年間フェローを務め、癌や再生医療等の研究推進に向けた提言書作成や、その作成にむけ世界の薬事や医薬品開発状況等の調査に携わった。

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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