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 株式会社 IBLC

No.【022】建設機械におけるICT化の現状

No.【022】建設機械におけるICT化の現状

小野 耕三

建設機械におけるICT化の現状

 私が建設機械メーカに40年近く在籍していたが、その間の技術者として脂の乗り切った時期に、建設機械のICT化に取り組んでいたことがあった。始めた当時は8ビットマイコンが世に出たばかりで、今なら1枚の小さな電子基板で可能な機能を、小型冷蔵庫くらいの筐体を油圧ショベルの背中に載せて、とりあえず電子化制御を実現した。しかし、その後のICTの進展はめまぐるしいものがあり、私が引退した2000年頃には、量産機種である油圧ショベルがフル電子制御化されるに至っていた。それまでの間には、私自身もこれから述べる様々なICT化技術に関わる特許を、こんなことが将来本当に実現するのかなあ、と半信半疑で出願していたことを思い返すと、感慨深いものがある。
 私の現役時代にはできないだろうと思われていた高度の機能が、いまや目覚ましく進展したICT化技術によって実現している。建設機械のICT応用技術を大別すると、機械単体のインテリジェント化、複数機械のシステム化制御、顧客サービスの高度化、製品開発・製造の高度化となるが、以下順にそれらを紹介する。

1.機械単体のインテリジェント化
 現在の建設機械の主流は油圧ショベルであるが、最初に欧州で開発されたときは一つの固定流量油圧ポンプの流量をマニュアル切替バルブで切り替え、複数のアクチュエータを操作する作業性の悪いものであった。それを日立がはじめて2ポンプ2バルブ式を開発したことで作業性が大きく向上し、その後これが世界標準となった。開発当初は固定流量ポンプであったものが、その後可変流量ポンプとなり、ポンプやバルブがそれぞれ2つある上に、ポンプ流量も制御対象となり、操作性と燃費向上をはかるために、これら多くのパラメータを最適に制御する目的で、前述のように2000年ごろからフル電子制御が導入されるようになった。
 最近になり、従来の2ポンプ2バルブシステムに対して、3ポンプ3 バルブシステムが採用され、さらなる低燃費化と操作性の向上がはかられているが、構成要素の複雑さが増したことにより、関連パラメータの設定項目はより複雑なものになっており、電子制御が必須になっている。
 こうしたシステムでかなりの低燃費化を実現したが、さらに燃費向上を目指したのがハイブリッド油圧ショベルである。電動モータ一体型の旋回装置が減速する時に旋回エネルギーを回収・発電してキャパシタ(蓄電器)に蓄電し、旋回加速する時には油圧モータをアシストするものである。このシステムは電子制御があって初めて可能になった。日立建機のハイブリッド油圧ショベルの例では、標準機と同じ作業量をこなしつつ燃費15%低減を実現している。
 後述するように油圧ショベルの稼動状態の多くのパラメータは電子情報化され、多様なシステム制御化、サービス向上に利用されているが、運転席のモニターにもこれらが機能的に表示されることで、オペレータの利便性向上に寄与している。
 機械本体の外部にICT技術応用のシステムを設け、高機能化をはかる例もある。3Dマシンガイダンスシステムによる油圧ショベルの法面(のりめん)成型施工や、GNSS「全地球航法衛星システム」を利用したロードローラの締固め施工管理システム等である。

2.複数機械のシステム化制御
 複数建機のシステム化制御が最も進んでいるのが鉱山機械である。鉱山で稼働するダンプトラックを、複数ある積み込み場所から排土置き場や破砕設備・精錬設備に効率よく配車するための配車システムは古くから使われていたが、近年車体に搭載するコンピュータの性能が上がり、無線LANで扱えるデータ量も増えてきたことから、このシステムにさまざまな新機能が追加され、鉱山機械群のシステム化制御が可能になった。ICT化による鉱山用掘削機械、運搬機械のインテリジェント化に加えて、各機械の健康状態を示すセンサーの数が大幅に増え、その出力を用いて機械の健康監視とそれに基づいた最適な保守計画を提示できるようにもなっている。各機械で発生しているアラーム情報とあらゆるセンサー情報をリアルタイムに事務所で監視、表示、そして記録することができる。安全支援の面では、一般の市街地と異なり日々変化するルートの中から目的地に効率よく安全に到達できるルートをダンプトラックなどの車両に地図上で案内するナビゲーション機能も実現している。

3.顧客サービスの高度化
 従来機においては、市場で故障が発生した際に車体がどのような状態であるかを把握することが難しく、サービススタッフが車体点検を行っても故障の原因究明に時間がかかる場合や、原因を特定できない場合があった。最近のフルにICT化されたモデルでは、機械のダウンタイムの減少と容易な故障診断を目指して、以下の三つの機能が実現している。
1)故障発生時の車体情報の記録
 故障が発生した前後の各種センサー情報やデジタル信号情報などを記録することで、不具合分析や原因特定を容易になっている。また、事務所からの指示により、機械の各種記録データの遠隔取得が可能である。
2)遠隔モニタリングシステム
 車体に取り付けられた各種センサー情報を収集し、車体に搭載されている通信機で収集した情報をモニタリングサーバに送信することで、全世界で稼働する機械をメーカ側でモニタリングできるシステムを構築し、それに基づくサービス支援を行うことにより機械のダウンタイムの減少を図っている。
3)故障診断ツールの強化
 建設機械の電子化が進み制御内容も複雑化していることから、車体の各種センサーの状態をモニタリングする項目も増大している。従来はメンテナンス時に専用の故障診断ツールを用いて、限られた項目の中から確認する項目を選択していた。これに対し、サービス員のサービス性向上を目的に、故障診断ツールに新機能を加え、制御ごとにシステム図を見ながら容易に車体の状態を確認できるようになった。
さらに最近ではこうした通信機能を使って位置や稼働状況を一元的に管理するサービスも行われている。これにより高価な油圧ショベルが盗難にあうのを防止することにも役立っている。

4.製品開発・製造の高度化
 高機能3D-CADの活用により、設計の初期段階からデザインレビュー、製造、品質保証に至るまでの一連のプロセスを、3 次元プロダクトモデルを核に進められるようになっている。設計の初期段階から3次元プロダクトモデルを作成しそれらを関係者が共有することで、デザインレビューを前倒しすることが可能になり、その結果をいち早く設計に反映し品質を高めることができる。また海外とのデータのやり取りをリアルタイムに行い、設計作業を並行して進めるグローバル設計も可能になっている。
 以前は異なる設計チームや設計と製造との間では、国内でもパッケージによるデータ交換が行われていたが、人手を介した 転送処理に工数がかかることや、最新形状の共有が困難といった問題が発生していた。 しかし現在ではこうしたシステムによってリアルタイムなデータ共有が可能なため、製造部門における板金展開や治具設計などにおける設計データ活用の効率が著しく向上している。
 建設機器に搭載される電子回路基板ECUの数が増加するに伴い、ECU間の通信テストは煩雑化し、高度の専門家が長時間かけていた作業を、専用ソフトが開発されることにより、通常技術者が比較的短時間で実施可能になっている。

 今まで述べてきた建設機械のICT化は、今後もさらに進化を続けることは間違いない。さらには、今まで構築したネットワーク上での、ビッグデータを活用したさらなる顧客サービスの向上や、製品開発の高度化が進められることが考えられる。

2016年1月19日

著者:小野 耕三(おの こうぞう)
出身企業:日立建機株式会社
略歴:技術研究所長、FA事業部長
専門分野:機械工学(油圧技術、メカトロニクス)
資格:工学博士(東京大学)、英検1級
趣味:音楽(とくに合唱)、木工

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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