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 株式会社 IBLC

No.【019】循環型社会のプラスチック再利用技術

No.【019】循環型社会のプラスチック再利用技術

隅田 憲武

循環型社会のプラスチック再利用技術

「循環型社会の構築」「資源循環」といった環境問題に係わるフレーズを頻繁に耳にするようになって久しいが、ひところに比べてインパクトが小さくなった感がある。モノづくりを生業としておられる方々からすると、自社製品を使用されるユーザが、特段の我慢を強いられることなく快適にその製品を使用でき、且つ、無意識のうちに環境に配慮できているのが理想であろう。本コラムでは、循環型社会の構築に向けたモノづくりについて、いま一度見直してみたい。

「循環型社会」の概念は循環型社会形成推進基本法では、「天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」とされている。この概念が提唱された社会的背景には、廃棄物の大量発生や廃棄物最終処分場の確保、不法投棄などの対策として、政府が「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の経済社会から、環境負荷の小さい「循環型社会」に転換することに解決策を求めたことにある。事実、最終処分場の残余年数は、産業廃棄物が13.9年、一般廃棄物が19.3年と推計(環境省資料)されており、環境制約にからの循環型社会の必要性が理解される。一方、資源の制約からは、石油の残余年数は53.3年(資源エネルギー庁資料)、鉱物資源では銅が40年、亜鉛が20年(米国地質調査所資料)と推計されている。これらのことから、循環型社会の構築には「環境制約」と「資源制約」の両面からアプローチする必要があり、最終処分量を削減しつつ、廃棄物から資源を回収し再使用する「資源循環」を進めることが重要となる。

このような考え方をもとに、政府は「資源循環政策(3R政策:Reduce、Reuse、Recycle)」を掲げ、循環型社会形成推進基本法では処理の優先順位として、「発生抑制」(リデュース)、「再使用」(リユース)、「再生利用」(マテリアルリサイクル)、「熱回収」(サーマルリサイクル)、「適正処分」と定めている。これらの政策を踏まえ、循環型社会の構築に向けたモノづくり現場での3Rの取り組みをみると、製品設計においてリデュース、リユースは経済合理性の観点から必然であり、設計の現場では常時進められている。したがって、循環型社会の構築に向けたモノづくりを進めるには、「再生利用」(マテリアルリサイクル)の拡大が必須であり、再生材料を有効に活用することが重要となる。

ここで問題となるのは、再生材料を使用した製品が使用済みとなり廃棄された際、どのような処理をされるかである。例えば、使用済み後に廃棄された際、回収・リサイクルされることなく「適性処理」以下の品位に処理されるのであれば、当初から再生利用ではなく「熱回収」を選択すべきである。資源循環を進めるには、回収・リサイクルが義務化された製品を再生利用し、その製品が廃棄された際には再び回収し、新たな製品の材料として再生利用するシステムをとることが必要である。

自動車や家電製品などの大型耐久消費財は、大量の金属材料やプラスチック材料が使用されており、また、「環境制約」「資源制約」ともに大きな影響を受けることから、自動車リサイクル法、家電リサイクル法で回収・リサイクルが義務化されている。金属やプラスチック材料は、十数年の長期にわたる使用によってダメージを受け、組成変化や特性低下が生じる。金属材料は古くから再生利用されインフラも整備されているのに対し、プラスチック材料の再生利用は遅々としている。これは両材料の劣化形態が大きく異なることにある。金属材料では酸化物や炭酸塩などを生成して原料鉱石に類似した組成へ戻るのに対し、プラスチック材料ではポリマー主鎖の切断等による組成劣化によって材料崩壊を起こしている。したがって、プラスチック材料の組成劣化の抑制や修復、丸め込みによる安定化などの技術開発をすることによって、再生利用を大きく進展させることができる。

プラスチック材料の再生利用の現状は、単一素材として回収された部材や端材等に、タルクなどの無機系充填材、エラストマーなどの改質材、同材質の新材などを配合して再生材料を調製し、高度な特性が要求されない部材へ使用されている程度で、量的には多くはない。今後量的な拡大を図るには、複数種の材質のプラスチックが混在した回収材から単一の材質を分離する分離技術、回収材に混在する異物や異材質のプラスチックを相容する相容化技術が必要となる。さらに、耐久消費財に再生利用するには、耐久性を確保するための寿命改善技術のほか、再生材料の課題を踏まえた品質管理技術が必要となる。

分離技術としては、人による分別のほか、比重分離、赤外分光法やラマン分光法などによる分光分離、静電気による分離などによって、ポリプロピレンやポリスチレン、ABS樹脂などの汎用プラスチックの分離が実用化されている。しかしながら、経済合理性や技術的な問題から、単一素材に分離するまでには至っていないのが現状であり、相容化技術に期待されるところが大きい。相容化技術としては、グリシジルエーテルやオキサゾリン、マレイン酸などの官能基を含有する反応性相容化剤や、ブロック共重合体やグラフト共重合体などの非反応性相容化剤などを、混在する異樹脂の材質や混在量に応じて適宜選択し配合することが検討されている。

寿命改善技術は再生利用される製品の寿命に応じて再生材料の耐久性を適切に改善する技術である。プラスチック材料には、通常、酸素や紫外線などによるポリマー主鎖の組成劣化を防止するために、酸化防止剤や紫外線吸収剤、光安定剤などの添加剤が配合されている。これらの添加剤は、製品の長期間の使用によって徐々に失活し、有効に作用する量は当初の添加量から大きく減少している。したがって、再生利用するには、これら添加剤の残存量やポリマー主鎖の劣化状況を把握し、耐久性を確保する必要がある。特に酸化防止剤は重要であり、ヒンダードフェノール系およびフォスファイト系酸化防止剤の追加添加は必須である。

品質管理技術としては、一般的な物性管理に加えて耐久性を踏まえた管理が必要となる。プラスチック材料ではポリマーの組成劣化と物性低下は必ずしも一致しておらず、組成は劣化しているにもかかわらず、物性の低下はないといった場合が多くあり、物性による品質管理だけでは組成劣化を見落とすことになる。再生利用するには、これらのことを把握した上で、処方、品質管理を行なうことが重要である。

循環型社会の構築に向けたモノづくりと資源循環の方向性を俯瞰してみた。
資源価格の乱高下や人件費の高騰、製品価格の低下など、経済の発展に向けて我が国のモノづくり市場は多くの課題を抱え厳しい状況にある。「高品位な資源循環」を実現するために必要となる多くの技術やインフラの構築は、これらの課題を克服するためのひとつのアイテムとなる可能性は充分にあり、今後の発展に期待したい。

2015年10月22日

著者:隅田 憲武(すみだ よしたけ)
出身企業:シャープ株式会社
略歴:シャープ(株);電化商品開発研究所 主任研究員事、環境技術開発センター 所長
専門分野:家電製品に係わる材料開発、高分子解析、高分子物性、プラスチックリサイクル

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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