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 株式会社 IBLC

No.【012】日本の起業について考える

No.【012】日本の起業について考える

竹林 貴史

つい最近、工学系母校の記念行事に参加する機会があり、そこで学生や若い卒業生の数人から最近起業したという話を聞きました。若い彼らの姿を見ると日本の起業精神はまだまだ健在であるように思われましたが、実はある調査機関が日本の起業の現状について調べたところ、日本の起業率は減少傾向にあり、特にここ数年は起業数が激減し、国際的にも低水準である実態が浮き彫りになりました。日本では起業しにくいのか? 起業土壌そのものに欠陥があるのか? 今回、本コラムの投稿の機会を頂きましたので、自身の起業体験を踏まえ、日本の起業について一考したいと思います。

”起業”のきっかけ

私が起業したのは今から3年前です。長年勤めた企業を辞め、そこでの研究開発の経験と人脈を活かし、アトピー患者向けの化粧品や動物向けの医療材などを開発する会社を設立しました。50歳を過ぎての新たな挑戦でした。

“起業”の道を選ぶきっかけは12年前に遡ります。当時、国立大学法人化の検討が本格的に開始され、産学連携ビジネスに大きな注目が集まるようになりました。化学メーカーで研究開発に携わっていた私も、新たな産学連携ビジネスの種を探すため、全国の大学を訪問する毎日でした。その中で大学発ベンチャー企業の存在を知り、自らの手で研究の事業化に挑む先生方と出会い、いつしか“ベンチャー起業”に関心を持つようになりました。当時、私が勤めていた会社は原料や素材に特化した化学メーカーでしたが、私は更に先の製品(消費者が直接触れる製品)の開発を自らの手で行いたい、そんな気持ちを徐々に抱き始めたのでした。

企業で埋もれるアイディア

社員が生み出したアイディアを企業で活かすには、会社の事業方針に沿っていなければなりません。そして企業は、出された提案に対し、成功の確度が高く、かつ大きな売上と利益(大企業の場合、最低でも数十億円の売上が見込める事業)を期待します。多くの企業では、事業規模が小さい、或いはハードルが高いアイディアは敬遠されがちで、その結果、面白いアイディアであっても却下されるケースが数多くあります。そして残念なことに一度却下されたアイディアは、その後再び検討されることはほとんどありません。

日本は技術立国で、日々多くのアイディアが生まれています。しかしその一方で日の目を見ること無く、埋もれてしまうアイディアが多く存在することも事実です。日本特有の「もったいない」精神からすれば、埋もれてしまいそうな面白いアイディアをもっと活かす場を増やす必要があります。その一つの方法が企業から多くの起業家を生み、その人たちを支援する環境整備が必要ではないかということです。

日本とアメリカの起業環境の違い

産学連携ビジネスに関わり始めた頃、日本の起業とベンチャー先進国アメリカの起業について比較したことがありました。その際に日本とアメリカでは起業家をサポートする環境に大きな違いがあると感じました。日本では起業して失敗すると二度目の起業チャンスが得にくいのが現状です。従って失敗を怖れるあまり、大胆なチャレンジをしようとしてもリスクから一歩前へ踏み出せない状況に見舞われ、その結果、チャンスを逃すことにもなりかねません。

一方、アメリカでは、失敗しても再度起業チャンスを掴める仕組みがあります。その一つがベンチャー保険です。一度失敗しても負債を背負わず新たなチャレンジができる制度です。当時聞いた話では、アメリカでは有能な起業家を埋もれさせない考え方があり、起業家たちの救済システムとして誕生した制度だそうです。またアメリカでは、学生の起業家を支援するファンドを、大学自体が持っているところがあります。日本の大学では資金調達の難しさから大学で起業ファンドを持つところはほとんどありません。このように、起業家を支える土壌が日本とアメリカでは異なり、日本で起業が増えない一因となっていると思われます。

資金調達の課題

起業には資金が必要です。しかし起業家から見ると、現行の資金支援制度はどれも満足できるものではありません。例えば、国や地方自治体の補助金や助成金制度は、支給が後払い制となっています。つまり起業し事業を推進するための資金は、最初は全て自己資金で賄わなくてはなりません。自己資金が不足する場合、結局は公的機関や金融機関からの融資を検討しなければならなくなります。融資には担保が必要ですが、もし事業が失敗すると、担保となる家や土地、財産を失い生活そのものができなくなることにもなりかねません。このリスクは起業を考える人たち、そしてその家族がもっとも怖れる不安で、起業の大きな障害となるところです。

ベンチャーファンドやベンチャーキャピタルの場合は、事前に資金は得られるものの経営に介入されることがあります。これは起業当初の理念を揺るがす問題へと発展する可能性があります。また、最近流行しているクラウドファンディングは、画期的なシステムと評される一方で、高額な資金の調達は難しい制度と言われています。

起業家たちの多くは資金調達で悩まされています。少ない資金で大きな事業を創出することは起業家にとって理想ですが、現実は試行錯誤の中で事業の成功を目指すため、潤滑な運転をするための相当の資金はどうしても必要となります。従って、スポンサーや事業パートナーを見つけることは非常に重要であり、起業家はそこにエネルギーを費やすこととなり、本来の事業推進に遅れを生じる原因にもなっています。

日本の起業の土壌作り

日本で多くの起業家を誕生させるには、まだまだ環境が不十分と思われます。アイディアが埋もれない環境、起業家が育つ環境、円滑な資金調達ができる環境、失敗しても何度でもチャレンジできる環境‥・、これらの環境整備が必要です。

国は「技術大国」を目指す上で、多くの起業家を誕生させ育てて行かなければなりません。そのためには、起業家への税の優遇制度、融資担保の見直し(生活保証)、大学への起業ファンド支援、ベンチャー保険制度などの環境整備を更に検討して頂きたいと思います。また各企業も”起業家”と連携する窓口を広げ、資金面での支援に更に取り組んで頂きたいと思います。更に企業から起業家を生む土壌があって良いとも考えており、例えば土日の副業推奨制度などを検討してみるのも一案です。

将来の日本を支える新しい事業を創出するために、起業しやすい土壌作りが日本にとって急務であり、起業環境の整備に産官学が更に連携し取り組む必要があると考えます。

2015年3月17日

著者:竹林 貴史(たけばやし たかふみ)
出身企業:チッソ株式会社
略歴:チッソ株式会社 横浜研究所 バイオグループリーダー、JNC株式会社 次席、ユニクス株式会社 代表取締役、
所属学会:近畿化学協会、日本リスクマネジメント協会
専門分野:バイオマテリアル、医薬医療材料、化粧料、機能性材料、化学装置
資格等:化粧品製造販売業(ユニクス)
趣味:野球、ヨット

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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