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 株式会社 IBLC

No.【004】先端技術企業が陥る罠

No.【004】先端技術企業が陥る罠

禿 節史

技術や製品の性能は時代と共に進歩してゆき、その技術や製品が本質的であればあるほど多くの追従者が現れてきて、価格競争に陥っていくパターンが多いものです。この時、先駆者は更に技術レベルを高めて追従者を振り払おうと必死になって、より高度な技術開発や製品開発に挑戦するのが一般的な流れです。これはこれで良いのですが、この行動が行き過ぎると往々にして消費者が望む商品化レベルを超えてしまい、言ってみれば匠のレベルにまで入ってしまうことがあります。こうなると少々技術レベルが低くても消費者が満足できる程度のものであれば、消費者は追従者の安価な製品を購入することになり、先駆者は苦しい状況に追い込まれてしまいます。このような状況を模式的に示したのが下の図です。この図面の奥には私の出身企業であるシャープの液晶技術の推移が秘められています。

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シャープは米RCA社が発明したDSM(Dynamic Scattering Mode)液晶 にイオン添加材を加えた交流駆動方式を1971年末に発明して液晶の寿命を驚異的に延ばすことに成功し、1973年6月に世界初の液晶表示電卓「EL-805」を商品化しました。この結果、シャープは実質的に液晶パネルの量産化に成功した世界初の企業となったのです。その後、電卓だけではなく腕時計、電子手帳、日本語ワードプロセッサ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、液晶テレビなどに液晶パネルの応用は次々と広がっていき、遂には現在見るような大型のカラー液晶テレビにまで到達したのです。 一方、シャープを追いかける企業群は追従者の強みで技術開発の時間と開発経費を大幅にカットして急速に技術レベルを高めてきたのです。これに対して、シャープは更に技術レベルを高めて追随者との技術優位差をキープし続けようと頑張ってきました。

しかし、シャープには大きな落とし穴が待っていたのです。図に示しましたように、いつまでもテレビという商品にこだわっていたためシャープの液晶技術がテレビとしての商品化レベルを超えてしまったのです。つまり、テレビという商品に限るとユーザはそれほど高性能な液晶パネルは必要でなく、画質がそこそこであればより安価な商品を選ぶようになるのです。つまり、テレビ向け液晶パネルだけにこだわっているとシャープの先行きが苦しいのは明らかです。

次に、それではこれからのシャープに必要な戦略とは何かという点について私の考えを述べます。シャープがどのようにして現在の液晶企業に成長してきたのかを振り返ることでその答えは自ずから見えてきます。

1973年に商品化した世界初の液晶表示電卓「EL-805」を皮切りに、シャープは電子手帳、日本語ワードプロセッサ、携帯電話機、パーソナルコンピュータなどの表示装置に液晶パネルを使った商品を次々と開発したのです。1988年には14インチのカラー液晶パネルの試作に成功。この頃はまだ3インチのカラー液晶テレビしか作れない時代でした。この14インチの試作品を見た当時の辻晴雄社長 は大型カラー液晶パネルの時代が来ることを確信して、カラー液晶パネルを使った新商品を提案するようにと各商品事業部に指示したのです。この結果、液晶プロジェクター(1989年、商品名「液晶ビジョン」)、カラー液晶パネル付ビデオカメラ(1992年、商品名「液晶ビューカム」)、8.6型世界初の壁掛け液晶カラーテレビ(1991年、商品名「液晶ミュージアム」)などこれまで世界になかった全く新しい商品が実現したのです。

つまり、シャープは液晶パネルのデバイス技術の向上と新商品とを密接に関連付けた開発戦略を取ったのです。商品事業部からの要望に応じてデバイス技術を進歩させ、一方デバイス技術が進歩すればそれを次の新商品に応用するという展開で、デバイス開発と新商品開発とをリンクさせることがその骨子だったのです。シャープはこれを「デバイスと商品のスパイラル展開戦略」と称していました。その後、この素晴らしい戦略的発想を継承するリーダの不在により途切れてしまったのですが、幸いにして2013年6月に高橋興三氏が7代目の社長に就任してシャープが再び蘇ろうとしています。

シャープはこの「デバイスと商品のスパイラル展開戦略」の原点に立ち戻って、現在の最新液晶技術を必要とする応用商品を見つけ出し更なる成長をすることが望まれます。最新の液晶技術を必要とする応用商品として今すぐ考えられるのは、微細表示が必要な医療用ディスプレイであり、スマートフォンやタブレット端末の表示部などですが、まだまだこれから新しい応用分野を開拓してシャープの液晶技術が次の段階にステップアップすることを願っております。

これまでは液晶技術を中心に述べてきましたが、何もシャープや液晶技術だけに限った話ではないと思うのです。皆様のような先進企業においても同じような問題があるのではないかと推察するのでこの話を取り上げました。研究開発が行き過ぎて先の展開が見えない最新技術や他社から追い上げられている技術など、外部の視点と知恵を導入するなどしてもう一度真剣に新しい展開を考えられると良いのではないでしょうか。

2014年11月11日

著者:禿 節史(かむろ せつふみ)
出身企業:シャープ株式会社
略歴:半導体設計部長 ICデザインセンター所長、大阪大学工学部非常勤講師、北海道大学大学院非常勤講師、芝浦工業大学大学院非常勤講師

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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