専門家コラム

【001】電子ビューファインダー 〜有機ELの生きる道〜

新井 道夫

最高級カメラというとデジタル一眼ですね。プロカメラマンおよび写真を趣味とするアマチュアの定番となっています。その理由は、レンズ交換ができるので望遠からマクロまで可能、画素が大きいので色再現が良い、シャッタースピードが高いなど、あらゆる場面に対応可能なところですが、最大の要素は、光学ファインダーだと思っています。銀塩カメラの時代に発明されたTTL方式、つまりレンズを通ってフィルムあるいはイメージセンサに入る光、画面を、ミラーとペンタプリズムで構成された光学ファインダーで直接見ることができる方式です。

最近は、このペンタプリズムとミラーの上げ下げ機構を省き、ファインダーを液晶画面に置き換えた、ミラーレス一眼が数年前に売り出され、一眼デジカメに比べて小型軽量で価格が安く、しかもレンズ交換ができる点で売り上げが伸びています。おそらく最近スマホ付属のカメラの性能が上がって来た為にコンパクトデジカメの売上げが落ちており、カメラ業界とすれば一眼レフに近くて、コストを下げた新たなラインアップが必要だったのでしょう。

しかし私はカメラとして光学ファインダーの利点をなくしてまでやることかなと疑問を持っています。ミラーレスやコンデジでは裏の液晶画面で見ればよいと思われるでしょうが、そこでは細かいところまでは見えませんので、結果として「よい写真が撮れた」にすぎません。デジタル一眼の光学ファインダーでは撮るべき画面が目一杯に大きく見え、周辺のよけいなものがカットされて、これを撮ろう、この画で良いという判断をして、シャッターを押すことができます。人の表情まで確認して撮ることができる、風景写真では絵としての構成や、細部の写りまで確認した上で撮影が出来る、スポーツや子供、動物の撮影では、望遠鏡を覗いた感覚で追いかけることができる。カメラを顔に固定できるので手振れが少ない。太陽光下の戸外でも液晶画面と異なり明瞭に見える、などファインダーの利点は多々あります。

今後のカメラはどうなるでしょうか?

私は電子ビューファインダー(EVF)がキーになると思っています。超解像度の小型ディスプレイをファインダー光学系の中に置けば、一眼レフ同様に、撮る画面内容が細部まで確認できます。このためのディスプレイには、有機ELが薄型、高速、色再現の良さ、解像度を上げやすいなどの点で有利です。まだあまり認知されていませんが、ソニーの高級カメラに0.5インチ、235万ドットの有機ELのEVFが搭載されています。実際に覗いてみると、一眼レフの光学ファインダー(OVF)と間違えるほどクリアです。

EVFを用いれば、上に挙げたファインダーの長所に加えて、絞りやホワイトバランスなどの設定変更による色合いやボケ具合など、撮影後の状況を事前に見れるので、よりよい写真が間違いなく撮れるようになります。さらにファインダーは視度調整機構を付けられるので、眼鏡が無くても画面もパラメータ設定もはっきり見えます。今後は、小型軽量で電子ファインダー付きのカメラが主流になる、というのが私の予言ですが、果たして5年後どうなっているでしょうか。

有機ELはテレビやパソコン、スマホ用途には液晶に勝てない状況になっており、特に日本メーカーはほとんど撤退という事態になっています。しかし、有機ELはその超小型・軽量・高解像度の特性を活かし、上記のEVF用途に加えて、これから伸びていく眼鏡型や腕時計型などのウエアラブルデバイスのディスプレイとして活用されると思います。

先月7月31日には国内企業の有機EL技術を結集する計画が発表されました。日本発の技術が大きな産業に育ってくれることを願っています。

2014年8月22日

著者:新井 道夫
出身企業:ソニー株式会社
略歴:中央研究所、コンポーネントカンパニー企画部、R&D戦略部担当部長
専門分野:半導体デバイス、化合物半導体、電子デバイス全般
受賞歴:平成11年全国発明表彰朝日新聞社賞
趣味:写真、プログラミング



*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

関連記事

TOP